ONE BRAND

2009年ONE BRAND(http://www.onebrand.jp/)マガジンリニューアルに合わせて新しく始まったコラムを担当しています。この雑誌は処分される犬を少しでも減らしていくための活動を応援しているもので、毎回コラムの内容も一度捨てられた犬達に焦点を当てて書いています。少しでも処分されていく犬達が減って行く事を願っています。

 

 

ONE BRAND ある犬の足跡 第一回

【飼い主】藤本 清五郎さん(62歳)コンピューター技術文献翻訳業
【飼い犬】権八くん(7~8歳)甲斐犬の純粋種か、雑種犬かは不明 

 

【キャプション】

動物保護団体『NPO法人 日本動物生命尊重の会 A・L・I・S』が 今年1月下旬に保健所から権八くんを引き取る。その約1ヶ月後に「飼い主募集」の張り紙を見た藤本さんが、 飼い主として権八くんを飼い始める。権八くんは引き取った時から、てんかん持ちで、足腰が弱い。 しかし「楽しさを貰う代わり、大切に世話をする」の 藤本さんの考えの下、現在穏やかな生活が続く。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「僕は、権八といいます」

 

 

 僕の飼い主の藤本さんは、僕の事をゴンと呼びます。

 今年の1月22日に僕は、保健所から外の世界に戻っていいよと言われました。僕はその後すぐに新しい飼い主が見つかりました。その人が藤本さんと言います。正直なところ、僕は人間に関心があまりなくて、ご飯をくれるから寄っていくという感じでしかありませんでした。

 ある日僕が野良犬だった頃、僕は雨の中夢中にご飯を探しました。僕がコンビニの前でずぶぬれになっているところを、若い高校生がおにぎりを買ってくれました。

 別に人間が嫌いな訳ではありません。ただ、関心がないのです。保健所にいる時も、別に尻尾を振る事はありませんし、保護団体に預けられてからも尻尾を振る事はありませんでした。ただその代わりにグルグルとあてもなく歩き回る事が癖になりました。
 僕は特に人から愛情をかけてもらう事を知りませんでした。
人は時々ご飯をくれるという存在でしかありませんでした。
僕の過去の経験がそう教えています。
僕は飼い主さんを藤本さんと呼びます。
これは人とある一定の距離を保つ僕の癖の為に「さん」とつけるのです。

 藤本さんは不思議な人です。

 僕の何に惹かれて、こんなにも手をかけてくれるのだろう。

 僕は足腰が悪いからオシッコ垂れ流します。僕は、野良犬だったから食べ物と見ると飛びつきます。ゴミだってあさります。ぼくは血統書付きでもないし、綺麗な服も似合わない。ただの野良犬だったんです。他の手のかからない可愛い犬達を選ぶ選択も出来たのに。なのにどうして。

 だから藤本さんは不思議な人です。

 毎日同じ部屋で寝起きするうちに、僕は一日に何度も藤本さんの事を考えるようになりました。   


 「藤本さんオシッコ」「藤本さんお腹へった」「藤本さん、藤本さん―」 覚えてますか?僕が夜中に何度も起きて困らせたあの日。
僕はあの時、声にならない小さな声で何度も何度も繰り返し言ってたんだ。聞こえていましたか。

 「お父さん。出逢ってくれてありがとう」

 

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 第二回

【飼い主】和田豊さん(61歳)会社員/登美子さん(61歳)主婦
【飼い犬】右:ぴっつ君(推定8歳) /左: かすみちゃん(推定2歳)/犬種スピッツ

 

【キャプション】

「どんな子が来ても仲良くなれる自信があった。」と語る和田さん夫妻の元に動物保護団体『PAK』からやってきたのは、問題児だったぴっつ君(2002年10月譲渡)と正反対でおとなしいかすみちゃん(2007年12月譲渡)。彼らの性格と向き合いながら付き合っていく和田さん夫婦の姿がとても印象的でした。(146文字)

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「和田家の教育」


 今回の取材先の和田家へおじゃましました。
「ワンワン!!!」と尻尾をブンブン振って迎えてくれたのは、ぴっつ君とかすみちゃん。保健所に入れられた経験から人間不信になっているかもしれないと勝手に思い込んでいた私はとても人懐っこい2匹に少しびっくりしました。

 しかし、飼い主の和田さんによると元々人懐っこい「かすみちゃん」とは対照的に「ぴっつ君」は家に来た当時連れて行った美容院から追い返されるぐらいの問題児で、相当な神経質だったんだそうです。オシッコは家の中でしてしまうし、食事だって取ろうとしない。ブラッシングをしようとすると唸って噛み付こうとする。そんなぴっつ君は今ではまったくの別の犬になったと思うくらい、問題児の面影は過去のものになっていました。

 
 「犬だって人間を困らせようとしているわけではない。犬にもその子なりのペースがあるから根気よく出来るまで待って、出来たらものすごく天才っていうぐらい褒めてあげる!!これが大事なんです」
そう語る和田さん夫妻だからこそ、ぴっつ君とかすみちゃんは今元気に笑っていられるのでしょう。

 インタビューが終わって家に帰ると以前出したコンペの選考結果が届いていました。「根気よく出来るまで待つ、かぁ…。」そう思いながら私は既に日が傾き始めた多摩川へカメラを持って向かいました。

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 第三回

 

 

【飼い主】丹下憲考さん(51)建築家/丹下デニスさん(51)ニューヨーク州弁護士
【飼い犬】右:Beeno君(推定10歳オス)

     左: Laniちゃん(推定11〜14歳メス)/犬種:柴ミックス

 

【キャプション】

Beenoは野良犬として生まれ、その後NPO法人ARKで引き取られる。その後新しい飼い主が見つかり譲渡されて9年間暮らすが、飼い主さんの事情でBeenoはARKの元に返される。同じくRaniもNPO法人ARK出身。二匹ともジャパンタイムズの飼い主募集欄に出た事がきっかけでRaniは2008年3月に、Beenoは2008年11月に譲渡され現在の丹下ファミリーの元で愛情をいっぱいもらいながら暮らしている。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「僕が見た夢」


 朝起きると僕は柔らかい光のカーテンの中で思いっきり伸びをしました。いい匂いのするキッチンから誰かの鼻歌が聞こえてきます。僕はきれいに整頓された清潔な家の中を少しウロウロしてみました。新しい僕の友達のRaniはまだ気持ち良さそうに寝ています。

 つい数ヶ月前まで寝ていた場所と全然違う。僕はいったいどこへ来てしまったのだろうか?ふと、そんな事を思いました。

 僕は、Beenoと言います。10年くらい前僕は野良犬のお母さんから生まれて、野良犬の子供として育ちました。その後僕を面倒見てくれる家族と出会いましたが、8年間一緒に住んだ後その家族とは別れる事になったんです。僕と一緒に飼われていた2匹のラブラドールだけは残して僕だけがどうして別れなければならなかったのか、今でもよく分かりません。ただ僕は飼い犬なので、運命の選択なんて出来そうにありませんでした。

 しばらくしてから新しい僕の家族が見つかった。それが今の家族です。新しい環境に馴染むのが苦手な僕も、お母さんの優しい声と甘い匂いがする膝の上に座るとすぐに安心しました。こんな僕をRaniは時々遠くでチラっと見ながらしょっちゅうどこかでイビキをかいて寝ています。昼下がりの時間がこんなにもゆっくりと進むなんて僕はここに来て初めて知ったような気がします。

 でも、いつかはこの時間がなくなってしまうんじゃないかって、時々怖くなる時があるんです。「飼い犬は自分で運命の選択はできない」と過去のトラウマが心のどこかでそう叫んでいます。だから僕はお願いしました。「どうかこの時間がいつまでも続きますように」って。

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 第四回

【飼い主】篠田 知恵子さん(60) 押し花作家
【飼い犬】ココちゃん(推定6歳メス)犬種:ミニチュアダックスフント

【キャプション】
以前は繁殖犬として飼われていたのですが、ブリーダーの崩壊で動物保護団体「ちばわん」に預けられる事になりました。そして今から約2年半前、ココちゃんは篠田家に来ました。長い間狭いゲージに入れられていたからでしょうか、来た当初は家を一歩出た途端地べたに張り付いて動けない時期もありました。今ではすっかり外を歩けるようになり、現在3匹の個性豊かな犬達と一緒に元気に暮らしています。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「私は産む機械でした」

 

 

 私のしていた仕事は、元気な赤ちゃんを沢山産む「繁殖犬」というもの。

 「可愛い子を沢山産んでね。私とあなたの生活がかかってるんだから。それに、なんていってもあなたの仕事は沢山の寂しい人達に元気を与えるものなのよ。ほら、頑張って!」

 私のオーナーであったブリーダーさんに褒められたくて、そして寂しい人達を元気にすると信じて私は何匹も子犬を産みました。私は外の世界を全く知らなくて。だから、私は繁殖犬として生きていた事に全く疑問すら感じずに、ただそれが普通だと思って生活を送っていました。

 ところがある時、ブリーダーさんが言いました。「もうこれで終わりよ」って。その後は今の新しい家族と出会う事になったんですが、私の今まで生きてきた世界とあまりにも違って、価値観も生活スタイルも何から何まで。だから、なんというか自由になれて嬉しいとか、家族が持てて嬉しいとかの感情よりも、とにかく混乱しました。「私はもう産まなくてもいいの?」「もう沢山の寂しい人達はいなくなって、みんな幸せになれたの?」

 私は混乱しながらがらも今度は新しい家族を元気にする為に日々笑いながら生活を送っていました。ところがこの間、居間のテーブルの上に置かれた新聞の折り込みチラシにびっくりする程の高値が付けられた私とよく似た子犬達が載っているのを見ました。私は突然、会いたくてももう一生会う事のない子供達の事を思い出しました。「お母さんはここだよ。みんなはどこ?」

 今になってやっと知りました。「あぁ私自身が産む機械だったのね…。」


ONE BRAND ある犬の足跡 第五回

【飼い主】勝又夏海さん(29歳)トリマー
【飼い犬】ポゥ君(推定1歳〜2歳)/犬種:テリア系雑種


【キャプション】
2009年11月下旬に『DogShelter』からポゥくんを引き取る。初めは一緒に住んでいる猫と仲良くなれるかどうか不安だったが、温和なポゥくんの性格で今では猫が毛繕いをするまでの仲。一緒にいてとても居心地のいい新しい家族の一員です。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「足立区の路上からやってきたポゥ」

 

 

 例えば、犬を物として見た時の話。

 ポゥの見た目は、テリア系の雑種、中型、色は白、片耳は無い。足立区をふらふらしていたところ、保健所に連れて行かれて『Dog Shelter』で保護された。現在は勝又家に住んでいる。ざっと説明するとこういった感じ。世間一般の人達が高いお金を出してまで欲しいと思って手にする犬とはほど遠いところにいる犬だ。

 じゃあ、勝又さんポゥをしかたなく飼ったのだろうか??

 いやいや、とんでもない。何年間も保護団体のHPを見ながら自分に合う犬を探していて、やっと見つかった子がこのポゥだった。

 最初にポゥと出会ったとき、ポゥの性格は名前のとおりポーっとしていた。そこが勝又さんのツボにはまった。理由はよく分からないけどお互い一緒に居て居心地の良いパートナーになれるという感じを受けた。それはまさに出会うべくして出会った特別な犬だったのだ。

 「以前は犬種のこだわりもありましたが、トリマーをして色々な子を預かっていくうちに見た目よりも相性や性格で見るようになり、それに気づいてからは自分と本当に合う子を飼いたいと思うようになりました」と勝又さんは語る。

 そう、人と犬との相性はさまざま。であれば、出会いの場所は多いほうがいいにちがいない。その一つとして動物保護団体から犬を引きとるという選択は、大いにありなのかもしれない。


ONE BRAND ある犬の足跡 第六回


【飼い主】三堀美紀江さん (52) 主婦
【飼い犬】チョコちゃん(推定2歳)犬種:カニンヘンダックスフント


【キャプション】

チョコちゃんは、動物保護団体「成犬譲渡の会」より2009年6月頃、三堀家に譲渡されました。三堀さんは以前から「ペットショップで売れ残った犬や、捨てられた犬達はどうなるんだろう?」といった事に関心があり、次に犬を飼うとしたら絶対に保護団体から犬をもらおうと決めていました。「動物保護団体の存在を知らない人がまだまだいるのでもっと沢山の人達にも知ってもらいたい気持ちです。」と話してくれました。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「旅した私」

 

 

 私が今の家族と出会う前の事。私はもう一匹のミニチュアピンシャーの子と一緒にある男の家に飼われていました。まだ小さかった事もあってあまりはっきりとは覚えていないけれど、彼はしょっちゅう私たちに暴力をふるいました。特にもう一匹の子なんて、「うるさい!!」って言われながらしょっちゅう打たれていたから、私は毎日なんとかして男からその子を守ろうと必死でした。

 そんなある日、私たちは人通りの少ない暗い場所で捨てられました。ご飯もろくになくてゴミをあさる生活を何日か続けていた後、野良犬がいるとの通報が入ったらしく気がつくと私達は保健所に連れて行かれました。そしてまた気づくと、保護団体に保護されて、そして色々な場所を点々としながら最終的に私達はそれぞれ団体を通じて新しい家族と出会っていきました。周りで死んで行く運命だったり、新しい飼い主と出会えなかった他の犬達が沢山いる中で私たちは今新しい生活をスタートさせています。

 それにしても私の生活はまるで人の都合に合わせながら進む旅のようなものですね。

 

 その先々で出会う人達や初めて出会う場所。まるでステキとは言いがたい旅であったぶん、新しく出会った今の家族の事もしばらく警戒した時期がありましたが、そんな私を家族はすぐに受け入れてくれました。ある日の午後、長女の女の子は言いました。「もう、旅はしなくてもいいんだよ」と。彼女の手の中で眠りかけた私の頭の中にとても優しく、それはとてもゆっくりと大きな安心感で満ちてくる言葉でした。


ONE BRAND ある犬の足跡 第七回


【飼い主】大西邦康さん(37)会社員、カオリさん(36)、うたちゃん(4)
【飼い犬】ぶ〜ちゃん(推定6〜7歳メス)犬種:ラブラドールレトリバー

 

【キャプション】

東京都動物愛護センター多摩支所より動物保護団体ハッピーラブズに保護され、

その後2009年7月5日ハッピーラブズから大西家に譲渡されました。

普段から小さい子供に何されても全然怒らないし無駄吠えもない、とても

おっとりとした性格。一軒家を建てたら大型犬と一緒に暮らしたかったという

大西さんの夢の中でぶ〜ちゃんは自由にのんびりと暮らしています。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「涙涙の話ではないけれど、」

 

 


 捨てられた犬を保護して飼うという話は、何も毎回感動的でなければいけない訳ではないと思います。確かに、保護された犬達が何らかの事情で捨てられたり処分される事はとても可愛そうな話だし、その処分される犬達が減っていくのを助けるというのは感動的な話だとも思います。でもだからといって保護された犬達が特別で、ペットショップの犬達は普通という事ではない気がするのです。実際に保護団体からもらった犬を飼っている人達の多くがペットショップから買った犬を飼っている人達と同じぐらい幸せに犬達と一緒に過ごしているのを見てそんな事を感じまし。

 今回取材したラブラドールの「ぶ〜ちゃん」もそうでした。その姿は保護された可愛そうな犬だね…というよりも今家族の一員として楽しく生活している普通の犬だったのでした。飼い主の大西さんは言いました。「えっと…うちは感動的な話なんて全然ないですよ。特別なエピソードって程のものもないし。しいて言えばすごく食いしん坊って話くらいですかね…。名前が「ぶ〜ちゃん」ってなっちゃうぐらい以前は保護団体の中でものすごくデブで有名だったんです。家に来てからも皆が家を留守にしてる間ハムスターの餌を1kgまるごと食べたり、アルミホイルを食べてしまったり……。もうエピソードは食べ物しか出てこないですよ。はははは。」

 

 保護団体から犬を飼うという選択肢。別に偽善でもなんでもなかった。「ただ処分される犬が沢山いるのならその子達一匹でもいいから助けてあげれればいいなと思っただけです。特別な事をしている意識はありませんでした」。そう言いながら少し照れる大西さん。取材中も近くで4歳になる長女のうたちゃんが、ぶ〜ちゃん抱きついて遊んでいます「いつもこうして、うたと遊んでくれているんです。飛びつかれても怒らないし、面倒見のよいお姉ちゃんですね。うたもぶ〜ちゃんが大好きです」。

窓から入ってくる初夏の風がのんびりと暖かく、私達の間をすーっと通り過ぎていきました。



ONE BRAND ある犬の足跡 第八回

【飼い主】斉藤武浩さん(64)会社経営/共子さん(62)/亜希さん(33)/黒岩利枝さん(32)
【飼い犬】アースくん(推定2歳6ヶ月)/犬種:シェルティー、パピヨンミックス

【キャプション】

アースくんが3ヶ月の時に「ペット里親会」から斉藤家に譲渡されました。初代に飼っていた犬も捨て犬だった経験があり、次飼う時も可愛そうな犬を出来るだけ減らしたいという気持ちから保護団体からアースくんを貰いました。名前は、地球のように心は大きくというお父様の命名で「アース」という名前が付けられました。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル「捨て犬だって、可愛いんです」

 



 今回取材に伺ったのは埼玉県の豪華なお宅。妙に緊張する私の気持ちをほぐしてくれたのは、動物保護団体「ペット里親会」から譲渡されたアース君でした。シェルティーとパピヨンのミックスで、大きな耳にどことなくパピオンの雰囲気が残る人懐っこい元気な子でした。
 
 このご家庭ではアース君が来る前に、一度レディーちゃんという捨て犬を家の近くで保護して飼っていたそうです。今まで犬を飼った事もなかった斉藤家でしたが、その存在は家族にとって特別なものとなりました。特にお母様の共子さんにとっては「娘にも相談出来ないような話を彼女にはしていました」と言う程かけがえのない存在でした。改めて当時を振り返って共子さんは、「捨て犬や保護犬に対する偏見は、彼女のおかげで全く無くなりましたね」と語ってくれています。
 
 そして、レディーちゃんが亡くなった後の事。どこか旅行へ出掛ける時でも彼女の遺骨を一緒に持って行く程悲しみに沈んでしまう共子さんがいました。そんな母の様子を見かねて、娘さんの利枝さんが勧めたのが「ペット里親会」のホームページで見つけたアース君だったのです。アース君は家に来てすぐ、誰とでも仲良くなれるとてもフレンドリーな子でした。共子さんの大きな悲しみは、この保護犬アース君のおかげで、自然と薄れていくことになりました。

 取材中、初めて会う私達にも、アース君はとても親しげに接してくれましたが、レディーちゃんの話で盛り上がると、どことなく不満気な表情を見せた様な気がしました。するとそれを察した共子さんは「でも、今はアースが一番だからね!」とそくざにフォローを忘れません。機嫌を取り戻したアース君は、お気に入りのゴージャスな階段の上に移動して行き、ゆったりと私達の話が終わるのを待ってくれたのでした。

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 弟九回

【飼い主】大場公子さん(55)主婦
【飼い犬】幸多郎くん(推定4歳オス)/犬種:シェルティー/初代飼い主の方が高齢で飼いきれなくなった為、保護され2009年4月に大場家へ譲渡される。

※写真左下


【飼い主】村瀬浩さん(43)会社員/雪乃さん(37)主婦
【飼い犬】かんたろうくん(永遠の7歳)/犬種:ボストンテリア/初代飼い主の方が引っ越しを理由に飼いきれなくった為、保護され2008年7月に村瀬家へ譲渡される。

※写真右下

【飼い主】軽部洋子さん(42)主婦/ゆきのさん(17)高校生/さやのさん(15)中学生
【飼い犬】斗真くん(3歳半)/犬種:柴/迷子犬として保護され、2008年9月に軽部家へ譲渡される。

※写真上

タイトル 保護犬の、同窓会日和

 

 

 

動物保護団体『ドッグシェルター』から卒業していった元保護犬100頭近くと、その飼い主さんが集まる同窓会があるというのを聞いて世田谷区の駒沢公園へ行ってきました。

 

 奇麗に紅葉した並木道に迎えられた入り口のすぐ側で、さっそく同窓会のメンバーのみなさんと出会うことができました。一人で来ている方、家族連 れ、海外の方々などなど・・。連れられたワン子の種類も柴犬やラブラドール、トイプードル、シェルティーなど色々な純血種と混血種達がいました。

 

 今回の同窓会は去年から始まってまだ二回目ということでしたが、そんな風には見えないくらいフレンドリーな雰囲気がいっぱいで、それに混ざって私もさっそく同窓会に参加している飼い主さん達に話しかけることにしました。

 

 まずは、みなさんに「保護犬を飼うことに関して、以前はネガティブな印象を持っていましたか?」という質問を投げかけてみました。すると、ほとん どの方が「いえ、ネガティブなイメージなんてありませんでした」との答えを返してきました。実は、文章を書く側の私としては、何かストーリーを求めていた 部分もあって、「今までは、とっつきにくいイメージを持っていましたが、この子を飼ってから印象が変わりました」的な答えを期待していた部分がありまし た。それがほぼ「ありませんでした」という答え。正直、驚きました。

 

 そして印象的だったのは、「最近では保護犬の認知度も上がってきていて、『我が家の子は保護犬なんですよ』と話すと、『あ、私の家の子もですよ』 なんていう返事が返ってくる事も時々あるんです」という大場さんのお話。また、「たまに『保護犬を飼ってるんです』と言うと、エラいですね!と言われるこ とがあるんですが、何も特別偉いことじゃなくて普通の事をしているだけなんですよ」とおっしゃった軽部さんの言葉も忘れられません。

 

 確かにこの同窓会の集まりを見ていると、社会貢献をしている人たちの集まりといった堅苦しい感じは全くなく、ただ犬が好きだからかわいそうな犬が 少しでも減る事が嬉しくて、またそんな犬達と一緒に過ごす事がすごく楽しいといった感じしかありませんでした。これまでの『ある犬の足跡』の取材を通し て、薄々は感じていたことですが、「保護犬を飼うというのは、普通のワン子達を飼うのと特別に区別することはないんだな」ということを改めて強く意識させ られました。

 

 世間ではまだまだ保護犬を飼う事が一般的ではありません。でも、今回の会のような和やかさを実際に体で受けとめてみると、「もしかしたら、保護犬 を引き取ることが当たり前になる日が来るのは、そう遠くはないのかも知れない」という思いがつい湧いて出てきます。新年早々、少し楽観的すぎるでしょう か?


ONE BRAND ある犬の足跡 弟10回

【飼い主】
金子士郎さん/照子さん/陽子さん
【飼い犬】
ビオラちゃん(推定10歳)/犬種:パピヨン
さくらちゃん(推定1歳)/犬種:雑種

 

【キャプション】

ビオラちゃんは繁殖犬として使用されており、保護された時にはガリガリに痩せて、足が折られてひどい扱いをされた状態でした。もう一方のさくらちゃんは、筑波の方のスーパーで捨てられているところを保護されました。
二子玉川で開催された里親会で出会ったことがきっかけで、2010年11月28日に動物保護団体『しっぽのなかま』から金子家へ譲渡されました。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル たからものの、気持ち

 

 

 

「私は、小さい頃に叔母の家に預けられました。母がいないという寂しさのせいか、たくさんの動物達を身近に感じながら成長してきました」

 

 犬や猫のみならず、アライグマやウサギなど、照子さんは昔から通算24匹もの動物を保護して飼ってきました。今は、去年の11月に動物保護団体『しっぽのなかま』から一緒に譲渡された2匹の犬達と共に暮らしています。

 

 パピヨンのビオラちゃんは、最初は「繁殖犬用として酷使されてきたので、長く生きられないかもしれない」と言われた程弱っていたんだそうです。で も、今はずいぶんと元気な様子。もう今年で10歳になります。一方のさくらちゃんは、子犬の時に筑波のスーパーで飼い主に捨てられたところを、保護団体に 保護されました。一度人に飼われていたからでしょうか、金子家に来た当初から手のかからない優しい子でした。

 

「私はね、この子たちを飼うことが全然苦労だなんて思ったことはないんです。むしろ彼らが元気になっていく姿を見ることが幸せであり、私のこころの宝物なんです」

 照子さんがこんなにも動物達に優しくできるのは、彼らに自分が小さい頃に母を亡くした時のような悲しい思いをさせたくないと考えているからでしょうか。

 そんな深い思いは動物達にもきちんと伝わっているようです。
「時々ね、今迄お世話してきた動物達が私に『頑張って!』って応援しているように感じる時があるんです。私の思い過ごしかもしれないけれど、彼らをそんな 風に身近に感じながら生活することで、毎日元気に過ごさせてもらってるわ。そう、まるで家にいた動物達から命の力を分けてもらっているみたいに」。照子さ んは嬉しそうにそう話しました。

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 弟11回

【飼い主】安田純也さん(45)会社員/敦子さん(43)パート/
日菜子さん(11)小学6年生

【飼い犬】小夏ちゃん(推定3歳)犬種:雑種/アニーちゃん(推定6歳半)/犬種:雑種

 

【キャプション】

今から約2年程前小夏ちゃんは、埼玉県入間市の多頭飼い崩壊現場から、アニーちゃんは1年半程前、埼玉県栗橋町の多頭飼い崩壊現場からレスキューされ「NPO法人日本動物生命尊重の会A.L.I.S」を通じて安田家に来ました。最初は一時預かりのつもりで保護する予定でしたが、今では2匹とも安田家の一員となって元気に過ごしています。

ある犬の足跡
ある犬の足跡

タイトル ありがとう犬、犬




  2 匹の保護犬が安田家に来ることになったのは、たまたま敦子さんがファッション雑誌に掲載されていた保護犬についての記事を読んだことが、きっかけでした。 記事にショックを受けた敦子さんは、インターネットで保護犬についてリサーチを進めていき、飼い主の見つからない犬達が殺処分されているという現状を知る ことになりました。「犬達の裏事情を知ってしまったからには、とにかく何かしなくちゃ私の気持ちが落ち着かない!」。そんな思いで、敦子さんは多頭飼い崩 壊現場から救出された2匹の雑種犬を動物保護団体を通じて飼い始めることにしたのでした。
 
  飼ってみると、実際はプライベートや仕事の時間を削ってまでお世話しなきゃいけないことも多く、正直いない方が楽だなと感じてしまうこともあったそうです。


  「でも、最初は上手く歩くことも出来なかった子が、どんどん元気を取り戻して今ではそこら中走り回っているんです。そんな2匹を見ていると、とても嬉しい気持ちになって、あぁ、あの時見て見ぬ振りをしなくて良かったなと思うんです。それに、たぶん傍観者を続けていたら、それこそ私自身が今も苦しんでいたと思います。保護犬をお世話しているようで逆に彼らに助けられたのかもしれません」
 
  よく見ると敦子さんの目には少し涙が溜まっていました。
 
  「可哀想だなぁ…」とその時本気で思っても、1週間後ぐらいには多忙な日々の生活に紛れて忘れてしまう、ということはよくあることかもしれません…。そんな中、「なんとかしたい!」そう思って保護犬を2匹も飼ってしまった。簡単なことではないと思います。そんな優しさと行動力に溢れた敦子さんをインタビューしながら、私の心が熱くなってくるのを感じたのでした。

 

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 弟12回

【キャプション】

 

【飼い主】松崎利恵さん(43)/主婦

【飼い犬】

右…PHIL(フィル)君(推定7歳)/ミニチュアピンシャー/知人の家で生まれた先住犬 

左…LUKE(ルーク)くん(推定1歳)/シュナウザーとトイプードルとのミックス(?)

 

埼玉県の保健所で明日処分予定というルーク君を、NPO法人「Wonderdul Dogs」が2010年9月3日に保護。その後、たまたま遊びに行った知人の家でルーク君がWonderful Dogsから一時預かりをしていたのをきっかけに、2010年10月1日に松崎家に譲渡された。

 

タイトル 路上犬だった、僕

 

 

今から1年程前、埼玉の路上で僕は捨てられました。路上に放り出されて悲しいということを考える余裕もなく、とにかく毎日お腹が減っていたのでゴミをあさりながら必死で食べ物を探す日々が続きました。でも、たまにすれ違う奇麗な格好をした犬達を見ると、僕にだけ飼い主がいないのが、なんだかとても不思議でした。

 

僕はこのまま路上で生きていくのかな…。そんなことを思っていたある日、僕を抱きかかえる人が現れました。「やった!これでちゃんとご飯が食べれる。飼い主が現れたんだ!」そう思いました。

 

でも、向かった先は犬を処分する場所でした。「飼い主のいない僕たちは、人間の世界では生きていけなくて、いづれ処分されてしまう。生きたいのに、生きることも自由に選べない。これが僕ら捨て犬の運命なんだ…」と処分所にいた先輩犬に教えられました。

 

あぁ、まるで誰にも愛されなかった僕の命。何のために生まれてきたの?答えは見つからなくて、ただ悲しい気持ちになりました。僕のことを大事にしてくれる飼い主と出会いたかった。大好きだよって撫でてもらいたかった。なんて、今頃思ってもしょうがないのかなぁ…。

 

「ルーク!ルーク!」僕を呼ぶ声が聞こえて、僕はお母さんの膝の上で小さなあくびをしました。お母さんは、飲んでいたコーヒーをテーブルに置いて「そろそろ帰ろうか。帰りはルークの大好きな公園に寄って行こ!」僕をぎゅっとだきしめながらそう言いました。あぁ、また昔の夢を見ていたみたい。僕は夢から覚めてほっとしながら、大好きなお母さんの匂いを力いっぱい吸い込みました。

 

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 弟13回 (オーストラリア)

 

【保護犬】Tinka(マルチーズとチワワとのミックス12歳メス)

【飼い主】Ms.Monika Biernacki(54歳Doggie Rescue代表) 

【取材先】動物保護団体Doggie Rescue(http://www.DoggieRescue.com

 

【キャプション】 

オーストラリアのシドニーには個人で保護犬の面倒をみているグループや、保護団体が沢山ある。Doggie Rescueはその中で最も大きな団体の一つで、4年前にモニカさんがシドニー郊外の森のなかで活動をスタートさせた。なおモニカさんの証言によると、最近は犬の殺処分問題に関する意識も高く、保健所から直接犬を引き取る人が増えているものの、州都シドニーのあるニューサウスウェールズ州(NSW)だけで年間3万頭以上(公的機関と民間団体による殺処分数の合算)に上るという。

 

タイトル 看板犬ティンカ

 

 

シドニーから25キロほど北の広大な森のなかに、動物保護団体Doggie Rescue

の施設はありました。

 

 私を最初に出迎えてくれたのは、ヨボヨボと歩くティンカという老犬でした。彼女はもともとDoggie Rescueに保護されていた犬でしたが、新しい飼い主が見つからなかったため、創設者のモニカさんが引き取り、それ以降、昼間は団体の看板犬として働いているのでした。

 

 モニカさんは、そのティンカを抱えながら、私にある事実を明かしてくれました。

 

「シドニーにある保護団体の多くは、なかなか寄付が集まらず、苦しい運営を強いられているところもあります。なかには、長期間飼い主が見つからない保護犬たちを仕方なく殺処分させているところもあるようです」

 

 たくさんの保護犬を救いたいという理想と限られた運営費という現実との間で起こる悲劇があるということを聞いて私は、なんだかやりきれない気持ちでいっぱいになりました。

 

 ただ、そんななか、Doggie Rescueは常時100匹以上の保護犬を抱えながらも「一度保護した犬は、ぜったいに殺処分させない」という確固たるポリシーの元で頑張って運営しており、そのことは私にとって大きな救いと映りました。そして、ティンカが、そんなDoggie Rescueの真の意味での看板犬=象徴として、とても輝いて見えはじめました。

 

 インタビュー中、モニカさんの腕の中でいまにも眠りそうなティンカは、人間の複雑な問題なんておかまいなしという感じで幸せそう。きっと明日も、その無邪気さをもって保護犬を飼いたいという人たちを出迎えるのでしょう。私は、彼女が出迎える人の数がどんどん増えることを心から祈りながら、静かな森のなかの施設を後にしたのでした。

 

 

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 弟14回(チリ)

 

【保護犬】チャンチョ(12)/雄/雑種

【飼い主】フェルナンドさん(67)/自動車部品販売店経営

【取材場所】チリ共和国/サンティアゴ

 

【キャプション】

チリの首都サンティアゴには約25万匹以上(保健当局推計)の野良犬が存在している。野良犬増加に悩まされているという声を聞く反面、現地のチリ人たちは野良犬たちととても仲良く共存しているようにも見える。ただし、野良犬として一生を送るよりも飼い主が見つかって、彼らに愛してもらうのにこした事はない。サンティアゴでは対策として、野良犬を保護して里親を探す活動に取り組む市民団体が数多く存在している。

 

タイトル サンティアゴの街角で

 

 

ある日、市場に向かって歩いている途中。小さな自動車部品販売店の前で白く太った小汚い老犬を見つけた。その犬は、店の前の日陰にずっしり座りながら、じーっと歩く人や車を見ていた。特別な理由はなかったのだけれど、ただ片耳の欠けたその存在が気になって、その犬の飼い主である自動車部品販売店のエルナンドさんに話を聞いてみることにした。すると、エルナンドさんは部品で黒く汚れた手を大きく広げながらその犬の意外な過去を教えてくれた。

 

「こいつはチャンチョという名前で、10年程前に家の前にいきなり現れた犬なんだ。でも、初めてこいつを見たときはビックリしたよ。なんたって、片耳がハサミで切られて血だらけになってたんだから。そう、酔っぱらいに片耳を切られて、逃げ出してきたみたいだったんだ。それで可哀想だったから餌をあげてたら、いつの間にかここに居着いたんだよ。でも、居着いたって言っても、何も悪くはないさ。だって夜になったら、番犬になるんだからね。この辺りは夜になると治安が悪いから助かるよ。でも、こいつ昔から性格は悪いんだよなぁ。ははは。」エルナンドさんは、シワクチャな顔で笑いながらそう言った。

 

そんな話の直後チャンチョにカメラを向けると、「ウゥ…」と牙を見せて撮影拒否。「おぉぉぉ…。話の通りだ」ちょっとびくびくしながらさりげなく写真を撮り続けていると、「おーい、チャンチョ」といってパンを投げる近所のおじさんが通りかかった。それを見て、エルナンドさんは「おう!」と言って手をふった。そんな二人のやりとりが、もう何年も前から続いているようなほど自然な感じだった。どうやら性格の悪いチャンチョも近所の人たちからは好かれているみたい。一匹の犬を取り巻く温かな人間関係を見ながら、なぜだか急に地球の反対側の日本が懐かしく感じてしまうのだった。

 

 

 

 


ONE BRAND ある犬の足跡 弟15回(アルゼンチン)

 

【飼い主】アンドレア・アントゥネスさん(30)/パート勤務 

     マルティン・アントゥネス君(9)/学生

【保護犬】ファナ(推定2歳)/メス/ラブラドールレトリバー系の雑種

【取材場所】アルゼンチン共和国/メンドーサ

 

【キャプション】

アルゼンチンでは、野良犬を殺処分することが法律で禁止されている数少ない国の一つである。約10年前までは、政府が管理する殺処分所があったものの、その後法律で禁止されてからは、政府や民間が管理するシェルターが捨て犬や、野良犬を保護している。とはいうものの、未だに路上犬が数多く存在しており、アルゼンチンでは犬を飼うといったら、たいていは路上犬たちを保護して飼うのが一般的だそうだ。

タイトル 屋上のラテン犬

 

 

 今から約8ヶ月前のある朝、アンドレアさんは仕事へ行く途中の路上で鼻を地面に擦り付けるようにして、一生懸命餌を探していた子犬のファナと出会いました。その日から仕事へ行く度に、同じ場所でウロウロ餌を探すファナを気の毒に思ったアンドレアさんは、そのまま放っておけず家に連れて帰ることにしたんだそうです。しかし、家に来た当初の大人しくて、内気だったファナも新しい生活に慣れてくるやいなや、いたずらな本来の性格が日々開花し始め、今やアンドレアさんが予想もしなかった様な少し変な行動を取って家族を笑わせていると、あるファナの悪癖を教えてくれました。

 

 「ある日私が夕食を作っていると、屋根の上からドシドシ動く足音が聞こえたんです。泥棒?と思って恐る恐る外に出てみると、楽しそうに飛び回るファナが屋根の上にいたんです。どうやら、庭に置いてあったガラクタをうまく使って屋根に登るのを覚えてしまった様でした。自分の家だけならともかく、ある日の午後近所から苦情が来てしまったんです。『お宅の犬が俺の家の屋根に登って飛び回ってる。うるさくてしょうがないから、なんとかしてくれ…』って。どうやって近所の家の屋根まで行ったのか…。屋根で飛び回っていたファナを呼んで叱ると、全然悪気が無かった様子で尻尾を振って喜んでたんです。もうその時は、怒る気持ちなんてどこかへ行っちゃいましたよ…」。アンドレアさんは笑いながら、庭でじゃれ合って遊んでいるファナと、息子のマルティン君を見ながらそう言いました。

 

 取材が終わって、その日の宿に向かって歩きながら「さすがラテンの犬!!人も元気だけど、犬もずいぶんと日本の犬に比べてやることが大胆だなぁ…。犬も育つ国によって性格が違うのかな…?」日本で屋根に登っている猫は見た事があっても、犬なんて見たことがなかった私は、カラフルな色で塗られた家々の前を通り過ぎながら、そんなことをぼんやりと考えてしまうのでした。